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池上線ブックフェスタ ー書店は続くよ、どこまでもー 2018レポート

2018年11月10日〜30日の期間、わたしたち(まち本本まちプロジェクト:コトノハ株式会社内)が池上線沿線の書店とともに開催したイベント「池上線ブックフェスタ」について、知り合いなどから「それで、実際やってどうだったの?」という声をかけられることがあったので、こちらでレポートします。

池上線ブックフェスタ(以下、ブックフェスタ)とは、わたしたちが主催となり、2013年から発行を続けている池上線沿線のローカル文化誌『街の手帖』がこれまでお付き合いしてきた池上線沿線にある14ほどの、ほぼすべての書店(一部書店は、独自のコンセプトで展開)に参加していただいたはじめての「本の祭り」。

開催の3〜4か月前から企画を練り始めたのだが、まず設定したのは、ブックフェスタを象徴するようなメインキャラクターの設定だった。象を相手に、素朴な一青年が柔道技をかけ、まさに倒さんとする瞬間を描いた大村タイシ氏によるイラストだ。理由は、本イベントの根底にある、昨今の書店や出版業界を取り巻く逆境に打ち勝つための、あるいは行動を起こさんとする者すべてが同じ土俵に立つ(相撲じゃないけれど)ためのアプローチでありたい、という思いからである。

そして、書店の皆さんには、これをイベント参加の目印として貼っていただこうと考えたのだった。いわゆる「ポップ」である。けれど、ただこれを印刷して貼ったところで何の面白みもない。少なくとも来店する人たちに「何かやっているな」と立ち止まってもらえるようなインパクトがほしい。そう思い、立体作品も手がける大村氏に相談したところ、彼が考えてくれたのが下の写真のようなものだった。
段ボールにイラストを切り抜いて貼り、ブックフェスタのタイトルを立体的にあしらったもの。どこにでもある、下手したらゴミに出されるような凡庸な素材を使用しているのがよい。大村氏が実際にスーパーからもらってきて、各書店用に一つひとつ丁寧に仕上げてくれた渾身の作だ。そして、書店に立ち寄った人がこの作品の周りに、池上線にまつわるおすすめの本の書名を書いて貼り付けられるような仕掛けを考えた。「みんなで作る、進行形のポップ」である。

これはそれぞれの書店のスペースの都合も考慮し、サイズ違いで数パターン作成したほか、書店内でブックフェスタを開催していることを告知するための店外用のポスターも作成した。

 

※また、店外に貼るポップは、地元で活動する印刷会社にお願いした方がいいと、大田マーチング委員会をやっているプリント・フォーさんにお願いした。

 

さらに、各書店にはブックフェスタ期間中、このポップの周囲に池上線や大田区、品川区にゆかりのある著者などの本を並べてもらい、専用の「棚」をつくってもらおうと考えた。そこでまず、わたしたちがそうした本をリストアップし、それを各書店に渡すことにした。

 

※以下に街の手帖編集部が作成した池上線沿線にまつわる本の一覧を記しておく。

「池上線ブックフェスタ 〜書店は続くよ、どこまでも〜
沿線にまつわる本のリスト」

現在住んでいる・かつて住んでいた著者の本、ゆかりのある⼈物の本、その他『街の手帖 池上線』にて執筆した著者の本(順不同):

三浦展『下流社会 新たな階層集団の出現』(光⽂社新書)、『横丁の引⼒』 (イースト新書)
平川克美『⼩商いのすすめ 「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ』(ミシマ社)、『⼀回半ひねりの働き⽅ 反戦略的ビジネスのすすめ』(内⽥樹⽒との共著 〈⾓川新書〉)
滝⼝悠⽣『死んでいない者』(⽂藝春秋)、『茄⼦の輝き』(新潮社)
オギリマサホ『おかんメールFinal』(扶桑社)
⼩林しのぶ『全国美味駅弁 決定版』(ジェイティビィパブリッシング)
⾼橋徹『古本屋 ⽉の輪書林』(晶⽂社)
監物博『昭和の顔と貌―東急池上線の⾛る街』(遊⼈⼯房)
ほしぶどう『おかおみせて』(福⾳館書店)
辻潤『絶望の書・ですペら』(講談社⽂芸⽂庫)
武満徹『武満徹エッセイ選 言葉の海へ』(ちくま学芸⽂庫)
佐藤隆介『池波正太郎の⾷まんだら』(新潮⽂庫)
池波正太郎『⾷卓の情景』(新潮⽂庫)
⼒道⼭光浩『⼒道⼭―空⼿チョップ世界を⾏く』(⽇本図書センター )
RIA建築綜合研究所 (編 )『建築家⼭⼝⽂象 ⼈と作品』(相模書房)
渡辺豊和『⽂象先⽣のころ⽑綱モンちゃんのころ ⼭⼝⽂象⽑綱モン太覚え書』(編集出版組織体アセテート)
池井⼾潤『下町ロケット』(小学館)
古川緑波『ロッパ⾷談 完全版 』(河出⽂庫)
笹山敬輔『昭和芸⼈ 七⼈の最期』(⽂春⽂庫)
wagashi asobi『わがしごと』(コトノハ)
⾼野⽂⼦『ドミトリーともきんす』(中央公論新社)
嵐⼭光三郎『昭和出版残侠伝』(ちくま⽂庫)
⻑⾕川伸『瞼の⺟ ⻑⾕川伸傑作選』(国書刊⾏会)
勝海⾈(著)江藤淳(編集)ほか『氷川清話』(講談社学術⽂庫)
幸⽥露伴『五重塔』(岩波⽂庫)
こうの史代『この世界の⽚隅に』(双葉社)
吉武輝⼦『別れのブルース 淡⾕のり⼦ 歌うために⽣きた92年』(⼩学館⽂庫)
太⽥静⼦『斜陽⽇記』(朝⽇⽂庫)
道場親信『下丸⼦⽂化集団とその時代 ⼀九五〇年代サークル⽂化運動の光芒』(みすず書房)
⼩泉信⼀『寅さんの向こうに 渥美清没後20年記念』(週刊朝⽇ムック)
星新⼀『ボッコちゃん』(新潮⽂庫)
増⽥正造『世阿弥の世界』(集英社新書)
あさりよしとお『すすめ!なつのロケット団』(⽩泉社)

 

 

このリストを見た書店さんは「ほうほう、なるほど。こんな本もあるんだねえ」と納得されていたところもあったが、実際にブックフェスタの開催日が迫ってくると「これはうちが仕入れなきゃいけないの? 返品はどうなるの?」といった問い合わせをちらほらいただくことになった。

各書店にその件について連絡し、当初こちらが作成したリスト通りではないけれど書店側でも「これは」と思った本を揃えてくれることになった。これは実はこちらのねらい通りだった。最初からこちらのリスト通りにそろえてもらうつもりはなく、むしろ各書店が「こんな本もあるけど」と能動的にこのブックフェスタに参加していただきたいと思っていたので、結果オーライだったのだ。
関連があるものは何を置くのかは書店さんの自由。すでに書店にある関連書籍や雑誌を置いてもいいし、できる範囲で取り寄せてもらってもいい。

 

こうして各書店内に池上線など関連の本のコーナーを作ることは決まったが、それでもブックフェスタと呼ぶにはインパクトが弱い。

そこで、1日限定で、沿線のすべての書店で店頭ライブをする企画を思いついた。さっそく音楽家の保利太一さんに連絡を取った。2016年夏、雪が谷大塚にあった三州堂書店本店が閉店する際、店主やご家族を囲んで、在庫がなくなった店内での閉店ライブを企画した。そこで演奏をしてくれたのが、以前この書店の裏に住んでいたという保利さんだった。

しかし、書店の立地や店主の意向によってすべての店舗がOKするわけではない。第一、14のすべての書店でライブを行うのは、保利さんはもちろん、こちら運営側にも負担が大きすぎる。
そこでめぐる書店を駅からすぐ行ける書店にしぼり、また断られた書店を除いて計7つの書店で行えることになった。

開催した書店は、蒲田のBOOKS一二三堂、久が原の井上書店、御嶽山の藤乃屋書店、雪が谷大塚の三州堂書店南雪谷店、石川台のBOOKS井上、洗足池の井上書店 洗足池店、そして戸越銀座の明昭館書店だ(書店名はめぐった順に表記)。
1つの区だけでなく、大田区・品川区にわたって開催できたのは、少し負担は大きかったもののイベント名に恥じず、よかったのだと思う。

 

とはいえ、20日にもおよぶブックフェスタ開催期間の中で、立体的なイベントがこの1日だけではややもの足りなく、バランスが悪い。そこで、趣向の異なるイベントを企画しようと考え、大田商い観光展で知り合った「大田・品川まちめぐりガイドの会」の林幸子さんに連絡。「沿線の文学散歩ができないか」と相談を持ちかけたところ快諾をいただき、エリアを戸越銀座に設定した。

企画の相談をしてから2日ほどで、ツアータイトルを「戸越銀座文学散歩:池波正太郎・星 新一の足跡をたどる」と決定。その日から、林さんは戸越銀座界隈で、池波正太郎と星新一にまつわる文学ネタを街を歩きながら確認してくださり、同時に、資料などもあわせて調査してくれた。
ツアーの案内は『街の手帖』誌上、弊社ウェブサイト上で行なったほか、大田区観光課と品川観光協会でも紹介いただいた。

 

さらにもう一つ、企画したのは読み聞かせのイベントだった。ブックフェスタ参加店で千鳥町にある絵本の店「ティール・グリーンinシード・ヴィレッジ」で、かねてから『街の手帖』の読者であり、執筆者であり、編集部に何度も訪ねて来てくれた浅草橋天才算数塾改め、サロンほし主宰で絵本作家のほしぶどうさんに、ほしさんの絵本の読み聞かせイベントを開いてもらうことが、双方と調整し決まった。こうして大枠として3つのリアルイベントが決定したのだった。

さらに言うと、ブックフェスタの開催をSNSで発表したところ、少し前に知り合ったKさんがボランティアで手伝ってくれると連絡をいただき、心強い味方を得たことも大きかった。

さて、池上線ブックフェスタは初めての開催ということもあり不安が募るばかりだったが、さすが街の書店さん。声がけもあって、蓋を開けてみれば心配していたポップにもたくさんのコメントが寄せられ貼られていたことに感動。

 

そして、印象的だったのが、保利太一さんによる書店店頭ライブ。

スタート地点の蒲田BOOKS一二三堂の店頭では、サンライズ商店街の中ということもあり人通りが多いのにもかかわらず、まだ外が明るいということもあってか立ち止まって聞いてくれる人はちらほら。正直、やや気持ちがしぼみかけたが、皆で気持ちを奮い立たせてツアーを続行。そこから陽が落ちてくるにつれて、保利さんの歌に耳を傾ける人が増えていった。
久が原の井上書店では、買い物帰りに熱心に聴き入ってくれていた方が、いったん家に帰って荷物を置いてから、次の店舗である御嶽山の藤乃屋書店まで見に来てくれるなど、思いがけない反響があった。

さらに、ありがたかったのは、書店さんがこの日の店頭ライブのために常連さんや街の人たちに声をかけてくれていたこと。

そして、わたしたちが保利さんを知るきっかけとなった御嶽山の「マルカフェ」のお二人が、応援しに駆けつけて同行してくれたこと。

最初はこちらの人数も少なく心細い気持ちにもなったが、気づいたらいろいろな人たちがこのライブに協力してくれていたことが、何より嬉しかった。

追記:

最後の書店、戸越銀座の明昭館書店さんでのライブを終えて(ここにもセンスのいい老紳士がずっと見てくれていた)、みんなで居酒屋で打ち上げをした。

「最初は、なんでこんな無謀なことするんだろうと思いました」と保利さん。「だけどやってよかったです」と言ってくれた。デザイナーの中平さんも駆けつけてくれての打ち上げとなり、終わったのが深夜2時。

今回のブックフェスタでは、子どもの頃、久が原の井上書店で本を買っていたという文筆家の平川克実さんもポップにコメントを寄せてくれた。平川さんは、現在、荏原中延で「隣町珈琲」を経営している。
さらに、デザインを担当した中平さん、演奏をしてくれた保利さんもコメントを寄せてくれた。

街の書店の底力を感じ、音楽の力を感じ、そして本をめぐって協力してくれた方々の心をいただき、また地域の連帯感も感じられ、本当に素晴らしいブックフェスタとなりました。
協力いただきました書店の皆様、そしてこのイベントに関わってくださったすべての皆様にお礼申し上げます。ありがとうございました!

今後もまた開催したいと思っています。
ボランティアで参加したいという方のご連絡をお待ちしています。

 

街の手帖編集長 針谷周作拝

 

協力書店:島津山書店(五反田)・ブックファーストレミィ五反田店・明昭館書店(戸越銀座)・井上書店 洗足池店・BOOKS井上(石川台)・三州堂書店 南雪谷店(雪が谷大塚)・藤乃屋書店(御嶽山)・須澤書店(久が原)・雄美堂書店(久が原)・井上書店(久が原)・ティール・グリーンinシード・ヴィレッジ(千鳥町)・BOOKS一二三堂(蒲田)・ACADEMIAくまざわ書店東急プラザ蒲田店・有隣堂書店(蒲田)※以上、14書店。敬称略。

 

 

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