コトノハ|編集と出版

コトノハメディア135 コトノハがわかる

東京の南を走る地味線・池上線を120%楽しむの術。

 池上線の歴史はざっと90年。正確に言えば、今年で91年を迎えます。私は、この池上線沿線で育ち、現在もなおこの電車を利用しています。 昔はガラの悪かった蒲田も、まだ猥雑さを残しているとはいえ、駅ビルが整備され、少年時代に感じた「危険さ」は感じられません。

 また、蒲田駅から川崎方面に向かって徒歩7分ほどの場所にあるタイヤ公園はいまも健在で、はじめて行った人ならちょっとびっくりする公園です。蓮沼は、池上線の中で最も細いホームを有する小さな駅で、この駅の周辺には、クセになる支那そばと、個性的なカレーを出す「インディアン」、元「つぼ八」創業者で、ゼロから居酒屋チェーンを創り上げた石井誠二さんの、「ひもの屋」などで知られる会社、八百屋町の本社もあります。

 今年になり経営を別会社に任せることになったようですが、社長の石井誠二さんの存在感は中小企業の社長の鑑となっています。そしてお隣、池上駅は駅舎の中に踏切があることで知られ、毎年10月に開催されるお会式には多くの人たちが訪れる格式のある町。本門寺の長い石段を上った者だけが見える景色は格別で、朝5時30分頃から行われる本門寺の「朝のお勤め」は、僧侶たちの読経が一斉に響き渡り荘厳そのものです。

 池上駅の隣は千鳥町。ここには現在は閉店してしまった旅館「観月」のほか、ホームセンターの島忠もあります。さらに、お隣の久が原には小さいが味の確かな洋食屋にケーキ店。御岳山には御嶽神社と銭湯の調布弁天湯があります。雪が谷大塚には、大衆酒場の「とよだ」。仕事の打ち上げではよく利用させていただきました。

 石川台駅には雪谷八幡神社に天ぷら、串揚げ、焼き肉。洗足池では、かつて日蓮が足を洗い、花見の名所としても知られています。長原には、数々の個人商店や居酒屋があり、大井町線と交叉する旗の台には昭和大学病院。同じく中原街道沿いには亀屋万年堂。地下の駅から地上に出ればアーケード商店街のある荏原中延。

 池波正太郎の住んでいた人気ある町・戸越銀座。立正大学のある大崎広小路。そして、2つ目の終着駅である五反田へ到着となります。路線距離10.9㎞。駅数15駅の大田区と品川区を結ぶ3両編成の路線がこの池上線で、この路線利用する人は21万人(2010年調べ・東急HPより)を越えます。

 40年数年前に、神楽坂から祖母の住む雪が谷大塚にたまに訪れた方の話によれば、同じ東京なのにまるで田舎に来たような風景が広がり、特に、洗足池から雪が谷大塚にかけての土手を見る度に、懐かしさに浸っていたといいます。木で組まれた駅舎が見られるのは、この沿線の人たちの時代に流されない頑固さのようなものを感じることができます。

 ネットがあるいまは、沿線の情報を簡単に知ることができます。でも、たまにはスマホを使わずにぶらりと店に入る。決して贅沢ではなく、そんな粋な楽しみ方をこの路線で試してみてはいかがでしょう?

 この小さな本には、池上線のすべてを書ききることは不可能です。ですから、いままで池上線を知らなかった人が、「へえ、池上線ってこうなんだ」「なんか面白そうだな」と思っていただければ嬉しいです。
 あなたが、まだ降りた事のない駅はどこですか?

針谷周作:街の手帖編集長・発行人

(『街の手帖 池上線』2013年3月発行創刊号より)

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